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聖なる夜に・・・(FF6 ロクティナ)
○聖なる夜に・・・
 
−人は皆片翼の天使、一人では飛べない天使
 
−だから、人は人に出会う
 
−だから、人は人を愛する
 
−共に生きていく人を支えるために、翼を広げる
 
−白く輝く翼は時に折れそうになるけど、決して跳ぶ事をあきらめない
 
−今、聖なる夜に聖なる歌を歌おう
 
−全ての人に祝福があるように・・・
 
−全ての人が愛を感じるように・・・
 
 
「きれいな歌ね」
 
ふいに後ろから声を掛けられ、振り返る。
気配を絶って来たのか、全然気づかなかった来訪者はティナだった。
 
「もしかして、ずっと聞いてた?」
 
なんとなく照れたような、バツの悪そうな顔を歌っていた本人、ロックはする。
 
「ごめんね、聞いていたかったから・・・」
 
そう言いながら、ティナはロックの横に並んだ。
 
「・・・風、冷たいけど気持ちいいね」
 
ロックは何も答えない。
その代わり、彼女同様目を一瞬だけ閉じ、またすぐ開ける。
12月の風は確かに冷たくて、思わず身体が震えるが、気持ちいいというティナの気持ちもわかる。
 
 
12月25日=クリスマス=
 
この下の部屋は今でも大騒ぎだろうなと考え、ロックは頭を抱えた。
 
「どうしたの?」
 
いつの間にか目を開けていたティナが、ロックの様子に慌てたように尋ねた。
 
「いや、ちょっと浮かれすぎじゃないかと思って・・・。
 いくら今日がクリスマスだからって戦いの最中だし・・・」
 
そう言いながら先ほどの光景を思い出す。
すっかり酔っ払っていろんな人に絡むセリス。
泣き上戸のエドガー、笑い上戸のマッシュ。
なぜか、子供のガウとリルムも酒を飲みベロンベロンになっている。
ストラゴス・カイエンなどは、最初の乾杯の段階の一口でダウンしている。
セッツアーとシャドウは隅でおとなしく飲んでるが、騒ぎを止める気はまったくない。
 
それを思い出したのか、ティナも苦笑した。
 
「うん、そうね。
 ・・・でも、"楽しむ時は楽しまなきゃ、明日からはまた戦いなんだ"
 前に私にそう言ったの、ロックよ?
 
「まぁ・・・そうかも・・・」
 
少し照れくさい気がして、頬をかく。
 
「ねぇ、さっきの歌、何?」
 
「ああ、アレ?実は俺も何の歌かは知らないんだよね。
 ・・・昔、レイチェルが教えてくれたんだ。ずいぶん前の"今日"に」
 
「・・・レイチェル、さんが」
 
「たぶん、どこかのクリスマスの歌だと思うんだけど、何でレイチェルが知ってたのかは教えてくれなかったな」
 
「そう・・・」
 
そのままティナは黙ってしまった。
ちらりと彼女の顔を見る。
あのフェニックスの洞窟で再会してからまだそんなに日が経っていない。
そのせいか、昔の彼女とどこか変わったかな?と思ってしまう時があった。
 
「モブリスの・・・」
 
どうやら自分でも気がつかない内に考え事をしていたようで、ティナの言葉に気が付かなかった。
 
「ん?ごめん、何?」
 
「モブリスの子供達もクリスマスを過ごしてるかな、と思って」
 
モブリスの事は簡単にだが、本人が話してくれた。
大切なもの、守りたいものができた、と・・・。
 
「私、クリスマスって始めてでしょ?
 去年の今日は、モブリスにいたけど、まだ目が覚めてなくて・・。
 だから、どんな日か全然知らなくて、昨日セリスに聞いたんだけど・・・。
 ・・・プレゼント、あげたかったなぁ」
 
「ティナ・・・」
 
少し寂しそうに遠くを見つめる彼女は今にも消えそうな気がした。
そこにいるのに、どこかに飛んで行ってしまいそうな・・・、そんな気がした。
だから、彼女の頭の上に優しく手を置いた。
まるで、そこにいるのを確認するように・・・。
 
「来年は、平和になったら来年は、いくらでも一緒に過ごせるよ。
 皆がまた集まったんだ、あとはアイツを倒すだけ・・・」
 
そのままティナの頭から手を離し、自分の身体の前に持ってきて強く握る。
 
「そうだ、アイツさえ倒してしまえば全て終わるんだ。
 大切なものを失くして、傷つく人はいなくなる。
 あたりまえだった光景が帰ってくるんだ。
 ・・・そしたら、一緒に皆でクリスマスが過ごせるよ」
 
「うん、そう・・だね。平和になったら、過ごせたらいいね」
 
「ティナ?」
 
何か、何かがおかしかった。
ここにいるティナがティナじゃないような、そんな気がした。
最近わかってきた。
こういう時のティナは、何か一人で抱えている時だ。
誰にも言わず、自分の心の中に何か問題を持っている時だ。
 
「あのさ、ティナ−−」
 
「あっ、ロック。見て!」
 
空を見上げるティナ。
何か言いたかったが、とりあえずロックも空を見上げる。
 
「あっ・・・」
 
空から降ってくる白い粒。
一つ一つが輝いていて、まるで何かを祝福しているようだった。
 
「雪、また一緒に見れたね」
 
「うん?」
 
視線を空から横に立つ彼女の方へと戻す。
ティナ自身は空しか見ていないが、言葉ははっきりとロックへと向けられていた。
 
「ずいぶん前だけど、ナルシェでも見たでしょ?」
 
「ああ、そういえば・・・」
 
本当に、ずいぶん前の様な気がする。
実際には、一年と少ししか経っていないのだが、何年も前の様な錯覚を感じる。
ティナの記憶が戻った直後、ナルシェで、ほんの少しだが二人で外にでた。
あの時もティナはひたすらに空を見上げ、自分は彼女を見ていた事を思い出す。
 
「・・・これは、きっと積もるな」
 
「クリスマス・プレゼントよ。きっと」
 
「誰の、誰に対する・・・?」
 
ふと、ティナがゆっくりとこちらの方を見つめてきた。
その瞳に秘められた思いは、ロックにはわからない。
ただ、微笑む彼女の表情がなぜか寂しそうに見えた。
 
「誰かはわからないけど、そう思った方は素敵じゃない?
 毎日戦って生きている世界中の皆に対するささやかなプレゼント」
 
「・・・だな」
 
ティナの表情は正直気になる。
しかし、ロックは無理矢理自分を納得させた。
ティナが何を考えているにしても、それを言葉に出さないなら、それは彼女の中の問題なのだろう。
自分はいざという時に支えてやればいい、・・・ティナが頼って来た時に。
 
「じゃあ、これは俺からのプレゼント」
 
「えっ・・・」
 
服のポケットから小さな箱を取り出す。
そして、それをそのままティナの手に預けた。
 
「でも、私何もお返しできない・・・」
 
クリスマス、という事さえ知らなかった彼女なら当然だった。
昨日のイブの時点でセリスに何の日か教えられたのだから、プレゼントなど用意できるわけがない。
ロックはそれをわかっていた。
 
「いいの、いいの。俺が勝手にティナに渡してるんだから。
 喜んで受け取ってくれれば、それで十分!」
 
本当に心の底から彼がそう言ってくれているのがその笑顔からわかったので、
ティナは素直にお礼を言って受け取った。
ロックの了承を得てから、箱を丁寧に開けてみる。
 
「コレ・・・」
 
中身は二つの指輪だった。
両方ともシルバーで作りはよく似ている。
唯一違う所といえは、
一つは十字架の飾りがついていて、その交わる所に琥珀色の小さな石がついている。
もう一つはその十字架をくりぬいたような四角い飾りがついていて、その四隅にはやはり同じ石がついている。
−−まるで、合わせればぴったりとはめこまれるような。
 
「"絆"だってさ」
 
「えっ・・・?」
 
「それを作って売ってた奴が言ってたんだけど、その石には祈りが込められているらしい。
 石によってその祈りは違うんだけど、その石は"絆"という祈りが込められている。
 ・・・例え、離れてしまってもまた会えるように。離れていても心は繋がっているように」
 
「離れても・・・繋がっている・・・」
 
「裏、見てごらん」
 
言われるままに、指輪の裏側を見る。
それぞれの指輪には、片方だけの羽が細かく彫られていた。
ちょうど、対となる形で。
 
「二つで一つって意味らしいよ。
 一番大切な人にあげると、お互いに支え合って生きていこうって意味になる。
 だから、その・・・」
 
ロックは片方の指輪、四角い飾りの付いた方をティナの手からとり指にはめた。
最初から、彼のサイズに合わせていたように・・・。
 
「・・・ティナが、そっちをはめてくれたらそういう意味なんだけど・・・」
 
ロックの顔がかなり赤くなっているのにティナは気がついた。
珍しい、そんな事を思う。
と、同時に考えることもある。
 
 
−例え、離れてしまっても・・・?
 
−例え、私が・・・消えてしまっても・・・?
 
 
それは、誰にも言ってないことだった。
自分の仲間にさえ、も。いや、むしろ仲間だからこそ言えなかった。
魔力の源である三闘神と同化してしまったケフカを倒せば、当然魔法や幻獣は消えてしまう。
それは、半分とはいえ、その血が流れている自分も同じだった。
けれど、ケフカを倒す事に躊躇なんてものはない。
それで世界に平和が戻るなら、自分の犠牲なんて大したものではない、そう考えていた。
だけど、仲間達は優しいから、それを知れば戦いに迷いがきっと出てくる。
だから言わないで、自分の心の中に秘めておこうと決めた。
その代わり、いま自分がここにいる事を大切にしようと決めた。
だから、笑えるし、いつも通りに仲間たちの触れ合える。
−−だけど。
 
 
『来年、平和になったら来年は』
 
そう言われた時、自分の中で作っていた仮面が壊れたような気がした。
 
『誰の、誰に対する?』
 
正直、それは本当にわからない。
それでも、もう二度と来ないこの時間の為に、図々しい考え方だと自覚していても、
誰かが自分の為に降らせているのではないかと思ってしまった。
 
『お互いに支え合って生きていこう』
 
自分には結局それができない事がわかっている。
だから、理屈ではこの指輪をはめてはいけない事もわかっている。
だけど、それでも・・・。
 
ふいにさっきロックが歌っていた事を思い出す。
 
−人は皆片翼の天使、一人では飛べない天使
 
−だから、人は人に出会う
 
−だから、人は人を愛する
 
−共に生きていく人を支えるために、翼を広げる
 
 
それならば、今この瞬間だけでも仮面を脱いでもいいだろうか。
もちろん、全てを話す事はできないが、気持ちだけでも素直になっていいのだろうか。
 
 
 
ロックにとっては長い長い沈黙だった。
ティナが指輪をじっと見つめたまま、何も言ってこない。
それでも、ロックは待った。
すぐにうなづいてくれなかった事は少しショックだったが、それでも待った。
−−ティナの表情を見たから。
まるでしかられた子供が今にも泣きそうな、でも決して泣かない表情。
ティナが、一人で何かを抱えている時はいつもこんな顔をする。
こちらに話せない事を謝罪しているような、そんな顔だ。
だから、この顔を見たときいつもロックは待つ。
こういう時のティナは、がんとしてゆずらない事を知っているから、話してくれるまで待つ。
その代わり、いつも一言だけ、言葉を与える。
 
「ティナ」
 
呼びかけに彼女は応じ、顔を上げた。
 
「今は、ティナの気持ちだけでいいんだよ。
 答えは、全部そこにあるから。
 いろんな悩み、あると思うけど、今は自分に正直に答えればいいよ」
 
「・・・ロック」
 
ロックは少し笑う。
 
「俺にはティナの悩みはわからないけど、今日はいいと思う」
 
「・・・?」
 
何が、と口には出さず目線だけで言う。
ロックもそれに答えるように、言葉を続けた。
 
「今日はクリスマスだから、特別な日だから、自分に我がままになっていいんだよ。
 普段、がんばってる人はね」
 
「・・・・」
 
そのまま、ティナはまた視線を手の中の指輪に戻し、それを指でつまみあげる。
そして−−
 
「・・・うん」
 
−−そのまま、指にはめた。
 
「ロック」
 
「ん?」
 
「歌、もう一度歌って・・・」
 
「・・・うん、いいよ」
 
 
 
−人は皆片翼の天使、一人では飛べない天使
 
−だから、人は人に出会う
 
−だから、人は人を愛する
 
−共に生きていく人を支えるために、翼を広げる
 
−白く輝く翼は時に折れそうになるけど、決して跳ぶ事をあきらめない
 
−今、聖なる夜に聖なる歌を歌おう
 
−全ての人に祝福があるように・・・
 
−全ての人が愛を感じるように・・・
 
 
 
−今、聖なる夜に聖なる歌を歌おう
 
−全ての人が繋がるように・・・
 
−全ての人がはばたけるように・・・
 
 
 
 
ティナは、一緒に歌いながらそっと涙を流した。
声も出さず、ロックには見られないように。
それに彼が気づいていたかのかどうかは、わからない・・・。
 
 
 
 
SUMMER COLORと言うサイト様でキリリクしてもらった小説ですv(すいません日本語ヘンです)
BY    蜜柑様
〜コメント〜
少し早いクリスマスネタのリクだったのですが、なんでしょうね、コレは。
本当にクリスマスか?と自分でも思っちゃいます。
いや、一応「ティナはいい子だから今日だけは自分にプレゼントあげてもいいんだよ」
というロックの思惑は書けたんですけど。
あと歌なんですけど、一応実在する歌です。
ただ、ある英語の歌を日本語に私流ですが訳したものです。
だからはっきり言って、本当の訳とはぜんっぜん違います!
むしろオリジナルと考えてもいいかも・・・。
更新日時:
2003/10/17

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Last updated: 2003/10/17

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